ジェフリー・バワ : De Saram House, 1986

De Saram House, 1986
「De Saram House」は、コロンボのワード・プレイスにある住宅で、1986年にジェフリー・バワによって改築が行われました。施主は、植民地期に政府の高官も務めた名門P.C. デ・サラム家で、現代ではスリランカを代表する音楽一家として知られています。ピアニストのドゥルヴィとシャルミニ・デ・サラム夫妻の住居として改築されたこの建物は、音楽活動を支える場として「音楽室」を中心に据えて設計。バワはここで伝統的な屋敷形式と近代的な住宅理念を結びつける試みを行いました。
建築は伝統的な瓦屋根と白壁を組み合わせつつ、屋内外の境界をあいまいにする空間操作が随所に見られます。内部は明るく広がりを持ち、庭や中庭を通じて常に自然との連続性を感じさせます。
「De Saram House」は、コロンボのワード・プレイスにある住宅で、1986年にジェフリー・バワによって改築が行われました。施主は、植民地期に政府の高官も務めた名門P.C. デ・サラム家で、現代ではスリランカを代表する音楽一家として知られています。ピアニストのドゥルヴィとシャルミニ・デ・サラム夫妻の住居として改築されたこの建物は、音楽活動を支える場として「音楽室」を中心に据えて設計。バワはここで伝統的な屋敷形式と近代的な住宅理念を結びつける試みを行いました。
建築は伝統的な瓦屋根と白壁を組み合わせつつ、屋内外の境界をあいまいにする空間操作が随所に見られます。内部は明るく広がりを持ち、庭や中庭を通じて常に自然との連続性を感じさせます。

ここで注目すべきは、バワが示した自然との深い調和です。スリランカ(旧セイロン)の建築文化は、強い日差しやモンスーン、豊かな植生といった熱帯の風土に対応しながら発展してきました。シンハラ様式の伝統家屋に見られる中庭や軒の深い屋根、植民地時代に導入されたベランダなど、外と内をつなぐ知恵が息づいています。バワはこうした民族的・風土的な要素をモダニズムの枠組みに取り込み、都市の住宅地においても自然と共存する暮らしを可能にしました。
この手法は、古代の仏教寺院建築や修道院に見られる「中庭を囲む回廊」や「光と影の演出」とも共鳴します。静謐さと開放性を同時に実現する空間構成は、バワが重視した「瞑想的な場」の感覚を都市住宅に引き継いでいます。一方で、コロニアル建築のように外部へ誇示的に開くのではなく、あえて内向きに閉じた控えめな佇まいとした点には、独立後のスリランカが模索していた「自らのアイデンティティをどう表現するか」という課題への応答が込められているように感じます。
こうした姿勢は、バワ自身のルーツとも深く関わっています。彼はムーア系(イスラム教徒の商人階層)の家系に生まれ、西洋教育を受けて法律を学んだのち、建築家として英国で修業しました。西欧的な知識を身につけつつも、帰国後に直面したのは、多民族・多宗教国家としてのスリランカが、独立後に固有の文化的基盤を再定義していく時代状況でした。バワは自らの複雑な出自と国際的視野を背景に、「西洋的モダニズム」と「セイロン的伝統」を対立させるのではなく、両者を有機的に結び合わせる建築を模索しました。
この手法は、古代の仏教寺院建築や修道院に見られる「中庭を囲む回廊」や「光と影の演出」とも共鳴します。静謐さと開放性を同時に実現する空間構成は、バワが重視した「瞑想的な場」の感覚を都市住宅に引き継いでいます。一方で、コロニアル建築のように外部へ誇示的に開くのではなく、あえて内向きに閉じた控えめな佇まいとした点には、独立後のスリランカが模索していた「自らのアイデンティティをどう表現するか」という課題への応答が込められているように感じます。
こうした姿勢は、バワ自身のルーツとも深く関わっています。彼はムーア系(イスラム教徒の商人階層)の家系に生まれ、西洋教育を受けて法律を学んだのち、建築家として英国で修業しました。西欧的な知識を身につけつつも、帰国後に直面したのは、多民族・多宗教国家としてのスリランカが、独立後に固有の文化的基盤を再定義していく時代状況でした。バワは自らの複雑な出自と国際的視野を背景に、「西洋的モダニズム」と「セイロン的伝統」を対立させるのではなく、両者を有機的に結び合わせる建築を模索しました。

De Saram Houseにおいて、その姿勢は日常的な住まいのスケールで具体化されています。仏教的な空間性、西洋的な合理主義、そして熱帯の風土への感覚的応答が重なり合い、ひとつの住宅の中で調和しています。そこには、国際建築の潮流に従うだけではない、スリランカ自身のモダニズムを築こうとしたバワの思想が色濃く刻まれています。
ダイニングスペースの壁には、彫刻家ラキ・セナナヤケの作品と、バワ自身がデザインした円柱形の照明が設置されており、建築・アート・インテリアが一体化した空間表現が見て取れます。これは、バワが「土地の文化」と「現代の表現」を交差させながら生み出した独自の世界観の象徴といえるでしょう。
ダイニングスペースの壁には、彫刻家ラキ・セナナヤケの作品と、バワ自身がデザインした円柱形の照明が設置されており、建築・アート・インテリアが一体化した空間表現が見て取れます。これは、バワが「土地の文化」と「現代の表現」を交差させながら生み出した独自の世界観の象徴といえるでしょう。