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JOURNAL Vol.9 : 名作家具を未来へつなぐ

LOGにて
Photo : CASA DE / Nik van der Giesen


ひとつの名作家具が現代まで受け継がれている背景には、デザイナー本人の構想だけでなく、それを支え、調べ、つくり続けてきた人たちの存在があります。CASA DEが扱う家具の多くは、そうした関係性の中にあります。遺族、財団、工房、ライセンス保有元、研究者。それぞれが異なる立場から関わりながら、一脚の家具を単なる過去の作品ではなく、いまの生活の中で再び意味を持つ存在へと接続しています。名作家具は、図面さえあれば簡単に再現できるものではありません。どのような背景で生まれたのか、誰がその意図を受け継いでいるのか、どの工房が技術として成立させているのか。そうした積み重ねがあってはじめて、現在のプロダクトとして成立します。
Photo : Phantom Hands
Photo : Phantom Hands


たとえば、Phantom Handsは単なる家具工房ではなく、インド各地に受け継がれてきた手仕事と、その背景にある人の営みを現在へつなぐ存在です。創設者ディーパック・シュリナートが語るように、彼らのものづくりは、ピエール・ジャンヌレのオリジナルデザインを継承するために始まりました。ラージャスターン州の木工職人、ゴラクプールの木材研磨の職人、カライクディのラタン編みの一族など、各地の熟練職人が集まり、一点一点を手作業で製作する体制には、技術そのものだけでなく、それを担う人への敬意が込められています。地産地消、地域雇用、若い世代への技術継承といった取り組みも含め、Phantom Handsは家具をつくる工房であると同時に、歴史や文化、人を尊重するコミュニティでもあります。

そうした姿勢は、ジェフリー・バワの家具をめぐる取り組みにも通じています。バワの家具は、単独のプロダクトというより、建築や庭、光や風の流れを含んだ空間全体の思想のなかで生まれたものです。だからこそ、いまそれを現代に継承するには、形をなぞるだけでは足りません。財団が守ってきた資料や記憶、それを受け止めて製作へと落とし込む工房の理解、さらにその価値を別の土地で伝えていく人の役割が重なって、はじめて現在の家具として成立します。ひとつの椅子や照明の背後には、建築家の思想を途切れさせず、今の暮らしへ静かに手渡していこうとする人たちの思いがあります。
Photo : Phantom Hands / AD India


また、ピエール・シャポの継承には、家族の記憶と工房の継続があります。シャポが残した家具は、素材への深い理解と、生活に根ざした視点によって支えられてきました。1987年に彼が他界した後、その精神は息子フィデル・シャポへ、そして現在は孫のゾラン・シャポへと受け継がれています。継承とは、形を守ることだけではなく、木材への向き合い方や、家具を暮らしの中でどう成立させるかという感覚まで引き受けていくことでもあります。ゾランは、「祖父の記憶はないが、父が受け継いだ情熱は目に焼き付いている」と語り、世代を超えて工房が続いていること自体が、シャポの家具が単なる名作ではなく、いまも生きた文化であることを物語っています。
Photo : Chapo Creation / Milk


そして、バラウナ工房もまた、建築と家具の継承が、図面や形式だけではなく、人と人との関係のなかで受け渡されていくことを示す存在です。1986年にサンパウロで設立されたこの工房は、フランシスコ・ファヌッチ、マルセロ・フェハス、マルセロ・スズキによって始まりました。その背景には、フェハスとリナ・ボ・バルディとの深い結びつきがあります。フェハスは学生時代からリナのもとでプロジェクトに参加し、建築、家具、展示、サイン計画にいたるまで、空間を総合的に捉える彼女の仕事を現場で学びながら、公私にわたり深い信頼関係を築いていきました。建築の価値を守るためには、それに応答する家具の質もまた重要であるという考えのもと、建築思想と職人技を結びつける場としてバラウナ工房は生まれました。そこには、リナの思想を単なる資料として理解するのではなく、実際に時間と現場をともにした記憶として受け取り、それを次の時代へ手渡していこうとする継承の意志があります。
Photo : Marcenaria baraúna / Marcelo Ferraz


名作家具はデザイナーひとりの名前によって成り立っているのではなく、その仕事を支える多くの人々によって現在へとつながれています。工房は形をつくるだけの場所ではなく、技術と解釈を担う場であり、財団やライセンス保有元、遺族や関係者は、その背景や意図を守りながら次の世代へ橋渡しをする存在です。そして販売や紹介の場にもまた、それらを正しく受け止め、背景ごと伝えていく役割があります。家具は、完成したプロダクトとしてだけ見ることもできますが、その背後にあるストーリーや人びとの関係性を知ることで、一脚の見え方は少しずつ変わってきます。CASA DEのコレクションは、単に形の美しい家具ではなく、そうした背景ごと受け継がれているものです。誰がその仕事を守り、どう現代へ接続しているのか。その物語を知ることは、家具を選ぶことを、もう少し豊かな体験にしてくれるはずです。