Jorge Zalszupin

ポーランド・ワルシャワ生まれ。

ジョルジ・ザウスピンは、ブラジリアンモダニズムを代表する建築家兼デザイナーとして知られています。ポーランドに生まれ、戦禍を逃れてブラジルへ渡り、同国のデザイン史に大きな足跡を残しました。

18歳でナチス占領下の祖国を離れ、ブカレストに移住しました。1944年にルーマニアで建築学科を卒業後、フランスで戦後復興に携わり、ドゥンケルクの再建にも従事しました。しかしヨーロッパ建築の過去に縛られた環境に限界を感じ、1949年に雑誌『L’Architecture d’Aujourd’hui』で目にしたオスカー・ニーマイヤーの作品に触発され、新しい創造の場を求めてブラジルへ渡航しました。1953年にはブラジル国籍を取得し、名前をJerzyからJorgeへ改め、正式に建築家としての資格を承認されました。これにより、自身の設計に署名する権利を得て、建築活動を本格化させました。

当初は建築プロジェクトに合わせて家具を自ら設計していましたが、その需要は急速に拡大。1959年11月、São Pauloに「L’Atelier Móveis」を設立しました。その名はバウハウスの理念を意識し、クラフトと芸術、技術革新と美的探求を結びつける拠点として構想されたものです。初期の家具は手工芸色が濃く、「Poltrona Dinamarquesa」にはフィン・ユールへのオマージュが込められています。その後、成形合板技術をブラジルに導入し、有機的フォルムを量産可能にしました。

1960年代、L’Atelierは最大200名規模の工房へと成長し、ブラジリア建設に伴う官公庁や住宅の家具需要を担いました。この時期に「Poltrona Presidencial」「Petalas Table」「Banco Onda」などの代表作を発表し、曲げ木技術やローズウッドの美しい木目を活かした表現を確立しました。特にローズウッドの細片を組み合わせた「Guanabara Table」は、モザイクのような質感を生み出す独創性で高く評価されています。

ザウスピンは自らのデザイン哲学をこう語っています。
「私は過度な硬直さの中ではうまく生きられない。たとえば90度の角度は好きだが、自分にはできない。私のつくるものには、抒情性や官能性が必ず入り込む。純粋さや清潔さだけから生まれるものではないのだ。」

2020年に98歳で逝去するまで、大理石、木材、スチール、プラスチック、ガラスファイバーなど多彩な素材を探求し続けました。シンプルでありながらエレガントで、官能的な要素を湛えた家具は現在もETEL社により復刻され、国際的に高い評価を受けています。

ザウスピンの理念と美学は、今もなお多くのデザイナーや愛好家に影響を与え続け、ブラジル・モダニズムの精神を未来へとつないでいます。