Bentota Beach Hotel（現 Cinnamon Bentota Beach）は、1967年にスリランカ南西部ベントタに建設された、ジェフリー・バワの初期を代表するリゾート建築です。スリランカ政府（当時の観光開発公社）による国家的リゾート開発計画の一環として進められ、バワが本格的にリゾート・ホテル建築へ取り組む最初のプロジェクトとなりました。

敷地はオランダ植民地時代の砦跡に位置し、海と川に挟まれた細長い地形が特徴です。バワは、この歴史性と地形条件を踏まえ、低層・水平を基調とする建築群を分節的に配置しました。建物は風や光、湿度、植生を取り込むよう計画され、オープンエアのラウンジ、連続する中庭、水盤が外部環境と室内空間を緩やかにつなぎます。これらの設計手法は、後年のバワ作品に広く見られる「内外の境界を曖昧にする構成」の原型といえるものです。

素材には現地で調達可能な石材・木材・テラコッタが多く使われ、家具や装飾にはスリランカの工芸技術が取り入れられました。これらは単なる装飾要素ではなく、地域文化や職人技術を建築と同列に扱うというバワの姿勢を示しています。

当時のスリランカ（旧セイロン）は、英領から独立して間もない時期であり、国家の観光産業育成が重要政策として位置づけられていました。西洋式の大型ホテルが標準化しつつあった時代において、バワは単純な輸入型モデルではなく、気候風土と地域文化に適応した建築のあり方を提示しました。のちに「トロピカル・モダニズム」と呼ばれるその姿勢は、ミニマルな構成と地域素材の組み合わせ、外部環境との連続性を重視する点に特徴があります。

1990年代後半にはホテルはバワの原設計から離れた改修が行われましたが、2017年に開業50周年を迎えたことを契機に、バワの建築思想を再評価する修復プロジェクトが始動しました。バワの事務所を継ぐ建築家 Channa Daswatte が監修し、2019年にバワの初期思想を尊重した形でリゾートは再整備されました。

建築内部にもバワのこだわりを感じるディテールが多く見られます。レセプションの天井には、エナ・デ・シウヴァによる鮮やかなバティック作品が施され、レストランフロアのコンクリート天井には葉のモチーフを用いたレリーフが彫り込まれています。どの空間においても、スリランカ固有の自然や手工芸がエッセンスとして丁寧に組み込まれており、建築と文化が一体となった表現が貫かれています。

Bentota Beach Hotel は、観光政策、地域文化、植民地史、そして新興国家としてのスリランカの状況を背景に成立した建築です。同時に、バワが後年確立する建築言語、（環境への開放、空間の分節と連続、地域素材の活用）が初めて明確な形で現れた重要なプロジェクトといえるでしょう。