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リナ・ボ・バルディ : ベナンの家(Casa do Benin)

1988年、ブラジル・サルヴァドール旧市街ペロウリーニョ地区に完成した Casa do Benin(ベナンの家) は、リナ・ボ・バルディによって設計された文化施設です。西アフリカ・ベナン共和国とブラジル、とりわけアフリカ系ブラジル文化の歴史的な結びつきを伝える拠点として計画されました。

この建物は、旧市街に残る二棟の古い住宅を一体化し、展示、教育、集会のための文化センターとして再生したものです。リナは、過去の改修で覆われていた漆喰仕上げを取り除き、石と泥による本来の壁体を露出させることで、建物がもつ時間の痕跡を空間に残しました。構造は過度に整理されることなく、床を貫く吹き抜けや連続する階段によって、分断されていた階層が垂直方向に結び直されています。
内部には、コンクリートの柱や梁といった近代的な構造体と、手編みのココナッツの葉や植物繊維による要素が併置されています。これらは装飾としてだけではなく、アフリカの工芸文化とブラジルの生活文化を建築の中で重ね合わせるための手法として用いられています。展示ケースや什器もリナ自身が設計しており、展示と建築、動線が一体となった空間構成が意図されています。Casa do Beninは、美術館のような固定的な展示空間ではなく、講演や教育活動、食事、交流といった日常的な行為が重ねられる場として構想されました。建築そのものが、アフリカとブラジルの歴史的な「流れと逆流(Flow and Reflow)」を体験的に理解するための装置として機能しています。
Casa do Beninのレストランのために設計され、リナ・ボ・バルディの家具デザインの中でも代表的な作品のひとつである キリンチェア(Girafa Chair) も、こうした思想の延長線上で生まれました。この椅子は、マルセロ・フェハス、マルセロ・スズキとの協働によって製作され、造形的な完成度のみを追求するのではなく、レストランという人の出入りが多い環境で日常的に使われることを前提に設計されています。

背と脚が連続した独特のフォルムは、視覚的な特徴であると同時に、簡素な構造によって安定性と強度を確保するための合理的な解決でもあります。とりわけ三本脚による華奢なフレーム構成は、構造的な成立が非常に難しく、設計の過程ではリナ自身が実現は困難だと考えはじめたとも伝えられています。しかし、フェハスとスズキが試作と検証を重ね、根気強く調整を続けたことで、最終的にこの構造が成立しました。
「Girafa(キリン)」という名称は、設計段階で意図されたものではありません。完成後、ベナン共和国の大使に披露した際、その姿を見て「キリンのようだね」と評されたことをきっかけに、この呼び名が定着しました。その後、このチェアを起点として、ハイチェアやスツール、刺繍職人のための椅子(エンブロイダラー)へと展開し、用途に応じたシリーズとして発展していきます。キリンチェアは現在、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久収蔵品にも選ばれていますが、その評価は造形的な完成度のみによるものではありません。特定の場所と用途から生まれ、建築や文化的背景と切り離せない関係の中で設計されている点に、この椅子の本質があります。それは、リナ・ボ・バルディが手がけた家具群すべてに共通する姿勢でもあります。