Ruy Ohtake

Ruy Ohtake

ルイ・オオタケ

1938 - 2021

ルイ・オオタケ(1938–2021)は、ブラジルを代表する建築家であり、建築・家具・空間を分離せずに構想する「トータルデザイン」を実践した存在です。サンパウロに生まれ、1960年にサンパウロ大学建築学部(FAU-USP)を卒業。ヴィラノヴァ・アルチガスに師事し、構造の明確化やコンクリートの構築性を重視するサンパウロ派の思想を基盤としてキャリアを築きました。日系ブラジル人として、日本からの移民をルーツに持ち、母はブラジルを代表する画家トミエ・オオタケです。芸術家の家系に生まれた環境は、彼の造形感覚や色彩への意識に強く影響を与えています。一方で、オスカー・ニーマイヤーの建築に見られる曲線的で自由な造形は、彼にとって重要な参照軸となっており、その造形的自由はニーマイヤー自身からも高く評価されました。

これまでに300を超える建築プロジェクトを国内外で手がけ、公共建築、教育施設、劇場、ホテル、集合住宅、オフィス、個人住宅に至るまで幅広い領域で活動しています。代表作には、トミエ・オオタケ・インスティテュート、Unique Hotel、Blue Tree Hotel(ブラジリア)、駐日ブラジル大使館(東京)などがあり、いずれも曲線と直線、色彩を融合させた強い造形性によって、都市の中で際立つ存在となっています。
彼の建築の特徴は、建設技術への探求とユニークな造形を両立させる点にあります。構造・素材・色彩を統合しながら、ブラジルの気候や社会的条件に寄り添う建築を目指し、「建築は図面で完結するのではなく、実際に建てられてから初めて成立する」という明確な思想を持っていました。そのアプローチにより、作品は常に作者性を持ちながらも、環境や社会に開かれた存在として成立しています。1968年に設計した母トミエ・オオタケの住宅は、その思想を象徴するプロジェクトの一つです。この住宅では、建築と家具が分離されることなく計画され、壁や構造体と一体化した什器や家具が空間そのものを構成しています。ルイにとって家具は単なる付属物ではなく、建築と同一の原理から生まれる要素であり、空間の機能や体験を規定する存在でした。この考え方は、後に家具が単体の作品として展開される際にも引き継がれます。1990年代に発表されたカーボンスチールの家具シリーズは、建築から自立しながらも建築的な思考を保持した「動く建築」として位置づけられました。さらに、MDFやガラスといった素材に対してもその限界に挑戦し、曲線や透明性を通して新たな空間体験を提示していきます。

彼の造形において核となるのは「曲線」です。曲線は視線を導き、空間に時間的な体験を生み出します。また、光と影の扱いにおいては、日本的な陰影の美意識とも共鳴し、曲面や角度の異なる面に光が当たることで、多様な明暗と奥行きを生み出しています。さらに1980年代以降、色彩は彼の建築において重要な要素となりました。色は象徴ではなく感覚的なものとして扱われ、空間に新たな関係性と強度を与えました。ブラジル本来のカラフルな文化を再評価し、それを現代建築の中に取り込もうとする姿勢もルイ・オオタケの特徴です。2007年にはブラジル建築家協会(Instituto de Arquitetos do Brasil)より最高栄誉であるコラール・ジ・オウロ(Colar de Ouro)を受賞。国際的にも高く評価され、1999年には国際建築家連合(UIA)北京大会において主要講演者として招かれるなど、その活動は世界的にも広がりを見せました。プロダクトデザインの分野でも活動し、2019年にはRocaの洗面器デザインでRed Dot 「Best of the Best」を受賞しています。

ルイ・オオタケの活動は、建築を起点としながら家具やオブジェクトへと連続的に展開される総合的な設計アプローチが軸にありました。構造・素材・光・色を統合し、人と空間の関係を再構築していくその姿勢は、ブラジル・モダニズムの文脈においても独自のスタイルを確立しました。